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パラノイドパーク Paranoid Park

予告編が終ると、スクリーンのフレームが中心により、正方形に近い形になる。最近あまり見なくなった’スタンダード’である。あまり見ないのに標準とはなんか皮肉な感じだが、これは人物を描くのに最適なフィルムサイズといわれてきた。監督は「グッド・ウィル・ハンティング」、「エレファント」のガス・ヴァン・サント。2007年のカンヌ国際映画祭で当映画祭の60回記念賞を受賞した。

ガス・ヴァン・サントのここ何作かは、’中編’という印象だ。長編のような物語への満足を期待してはいけないのかもしれない。「エレファント」「ラストデイズ」そしてこの「パラノイドパーク」の共通点は重いテーマであること、しかも人の生き死にかかわることなのである。カタストロフィへ向かう共同体の亀裂の因果関係を、無情な長いシークエンスショットで描いたり、あるいは主人公の美しさと狂気、周辺の無関心を、地に落ちた天使のような寄り添う視点で見つめたり、ガス・ヴァン・サントは、その手法になんらかの意図をもたせていると思う。「パラノイドパーク」のメインビジュアル、主人公のモザイク状写真は、この作品の手法を表しているようだ。主人公アレックスのプロフィールの不揃いなパズルのようにこの映画は進行する。「ラストデイズ」でもブレイク(ニルヴァーナのカート・コバーンがモデルといわれている)を知ろうとする試みだったが、もはやどこか理解不能な彼の言動には客観的な視点が働いていた。しかし「パラノイドパーク」ではアレックスの内面へはいってゆく。時間軸も前後し、アレックスのモノローグ、現実の会話、そして音楽といろいろなトーンが生まれ、35mm、スーパー8、ビデオと映像の質感も様々で、スローモーション、フレームアウトなどその意識の流れぶりはジェームズ・ジョイス的ですらある。生死にかかわる重いテーマだからこそ、結果めいたものをすりぬけ、ひとつの見方に偏ることを回避した作品になっているのだろう。

この作品の舞台はオレゴン州、ポートランド。パラノイドバークとはBurnside Skateparkで実在する場所。1993年、ドロップアウトした若者たちが、単にスケートをしたいという理由で、違法の土地に勝手にセメントや材料を流し込んで、スケートボードパークをつくった。スケートボーダーの間に口コミでこのパークが知れ渡り、多くのスケートボーダーが集まるようになって、ついに市もこの施設を許可するに至ったという背景がある。ダウンタウンからこのパークにいくにはバーンサイド橋を通るのだが、この橋の風景ショットも効果的に使われている。

高校生のアレックス(ゲイブ・ネヴァンス)は、家を出た父と母の間で離婚話が進む家庭にいる。彼女はジェニファー(テイラー・モンセン)だけど、本当に好きかどうかよくわからない。友人のジャレッド(ジェイク・ミラー)のようにスケート・ボードもうまくない。アレックスは家族を見失ない、彼女の貪欲さに嫌悪感を抱き、パークに憧れる。社会からドロップアウトした人たちが違法ながらも占拠しつくったスケートパークはクールの象徴のような場所だった。アレックスは揺れる。ジェニファーとわかれるべきか、パークに行くべきか。しかし、ジェニファーに対する虚無感とパークにひかれる気持は、プラグマティックには考えられない。そんなある日、学校に刑事がやってくる。

アレックスが誤って人を殺めてしまうことは、すでに宣伝でも晒されているが、このおそろしい事件を話すか否かという、ハムレット級な問いに不動な答えはありそうもない。とはいえ、この作品は悲劇的な場面ばかりでなく、たとえば女友達メイシー(ローレン・マッキッニー)との会話は陽光がそそぐような穏やかなシーン。ちょっと驚いたのは、同じように両親の不和に悩むアレックスの小さい弟が、一生懸命実況するのは「ナポレオン・ダイナマイト」(邦題「バス男」)のシークエンス。アメリカの家族の崩壊は周知のことで「ナポレオン・ダイナマイト」なのだが、この作品はある意味ボジティヴであり、弟のほうがよっぽど生命力を持ち合わせいるような気持になる。

撮影はウォン・カーウァイ作品のスタイリッシュなカメラ・ワークで有名なクリストファー・ドイルが担当。持ち前の撮影のヴァリエーションであっても、アレックスの内面に焦点をしぼって繊細に描き、静謐なシーンの強度も印象的だった。音楽もエリオット・スミス、イーサン・ローズのようなSSW、フェリーニ作品のニーノ・ロータ、パンク・ロック、ミュージック・コンクレート、ベートーベンなど多岐にわたる。音楽が代弁するというより、アレックスの心が音楽を操っているかのようにすらきこえてくる。アレックス役のゲイブ・ネヴァンスはポートランドの高校生で、この映画のエキストラのオーディションを受けた時にガス・ヴァン・サントの目にとまったよう。センシティヴな内面を覆い隠してしまうような大きな瞳と心より身体が先に成長してしまったようなアンバランスがあって、アレックスの感情や立ち位置の、計り知れない深さや刻々と変わる不安定さを体現していたと思う。

http://paranoidpark.jp/index.html

Movie/パラノイドパーク


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